クライシス・メディア・プロジェクト

東日本大震災ビッグデータワークショップ Project311 報告会(2012年10月28日)

概要

東日本大震災ビッグデータワークショップ Project311は、東日本大震災に関連する多種多様なデータを基に震災を振り返ることを通して、あの時本当に必要なサービスは何だったのか、次の災害に備えるにはどうすればいいかを検討するワークショップです。

私たちのテーマは「クライシス・メディア」、すなわちGeoNLPなどを用いることで時間・空間・テーマを軸として情報を集約し、状況認識を支援するためのメディアを構築するとともに、その情報を被災地に伝えることができるメディアをどうすれば構築することが可能かについても、長期的な課題として議論を深めていきたいと考えています。

なお報告会はすでに終了しましたが、まとめ動画などが公開されています。

論点

クライシス・メディアとは危機に対応するためのメディアということになりますが、そこで大きな論点となるのは以下の2点です。

メディアに関する研究はとかく第一の論点である「分析」に偏りがちです。もちろんマスメディア・ソーシャルメディアとも成功例もあれば失敗例もあり、東日本大震災のような巨大な事例を扱えば山のような知見を生み出すことができるでしょう。ただ、そのような分析をいくらやったとしても、その分析で得られた知見を何らかの形で反映させなければ、結局のところまた同じことを繰り返すことになります。そして知見を反映させるためには、たとえ小さいとしても「新しいメディアを創生する」という意識が必要だと考えます。第二の論点である「創生」を「分析」と組合せることで始めて、意味ある前進ができるものと思っています。

分析

東日本大震災でのメディア空間を分析するにあたって、時間・空間を主として分析するとすれば、どのようなテーマが設定できるでしょうか?

まずは地方ごとの話題です。その地方に関してどのような話題がどの時間に話されていたのか、メディアを横断する形で比較することができれば、何が不十分だったのかを把握することも可能になるでしょう。ここで問題となるのが、現地の人による発信と現地外の人による発信の区別です。その地方に関する話題という意味では共通する話題ではありますが、両者の違いを知ることも重要な課題です。また現地と現地外の人とのコミュニケーションの実相に迫ることは、救援体制を考えるうえで一つの材料を提供してくれることでしょう。またより細かく考えれば、現地外の人が現地に来て発信する情報や現地外だが現地にゆかりのある人が発信する情報なども異なると考えられ、単に情報発信地で分類することが意味あるのかも検討しなくてはなりません。

次に関心があるのは、マスメディアとソーシャルメディアの比較、それぞれの強みと弱みの分析、および相互補完的な利用への知見などです。クライシスに対応するには「使えるものは何でも使う」という精神が重要で、どちらかだけがあれば十分というものではありません。どのように使い分ければ最も有効に情報を伝えることができるのか、それは情報の内容だけにとどまらず、情報の表現や受容にも関わる大きな問題で、そこのメカニズムを考えることは将来に向けて重要な課題だと思います。

なお個人的に関心があるのは、福島第一原発事故への対応です。この事故への対応においては、当初の情報公開が不十分だったために、「しなくてもいい被曝をした」と言われる人々がいます。しかし政府は「パニックを恐れて」情報公開をしなかったと主張しています。この問題に対して当時のメディアの記録から何が言えるでしょうか。例えば「情報を公表したらパニックが起こりえたか」を検証することはできるでしょうか。あるいは政府公式発表やマスメディア以外のルートで、現地に人に情報を伝える手段はあったのでしょうか。さらに情報が伝わったとして、現地の人々はうまく避難できたのでしょうか。これらはいずれも非常に難しい問題ですが、きちんと考えていきたいと思います。

創生

分析によるcheckを経た後は、それをactにつなげなくては、せっかく得た知見も次のクライシスに活かすことができません。メディアに関するactとして何が可能でしょうか?

まず思い付くのは、既存のメディアに対して「意見」を表明するという方法です。これはこれで価値があると思いますが、言いっ放しになる可能性も高いこと、そして「自らの考えによるplan」ができないという問題があり、実効性にやや不満が残ります。

一方、自らがメディアを創生してその中でPDCAサイクルを回していけば、自らが立てた計画をすぐに実施することができることになります。現代は以前よりもメディアの立ち上げが簡単となり、ウェブ上にはツールもいろいろ揃っています。自ら情報を発信するだけなら、ツイッターやブログのようなツールを使えばすぐにでも可能ですし、実際にこれで自分メディアを運営している人もいます。ただしこれを長期にわたって維持・運営していくことは今でも決して楽なことではありません。

そこで自らが発信するのではなく、他人が発信した情報をまとめようという動きが出てきました。最近ではキュレーションサイトやまとめサイトと呼ばれるサービスが流行しており、すでに誰かが発した情報を集約するアグリゲーターの役割が大きくなってきました。ただしアグリゲーターは他者による情報発信に依存している面があり、場合によってはただ乗り的な存在として厳しい目が向けられることもあります。アグリゲーターとしての付加価値は何かが問われるところです。

その次の動きとしては、こうして集めた情報を個人に合わせた形で配信する個人化サービスではないかと考えています。好みに応じて必要な情報が異なるというのはよく言われることですが、クライシスの場合は個人ごとに必要な情報が異なるというのは、単なる好みにとどまらないもっと切実な要求です。関東地方で必要な情報と東北地方で必要な情報は異なりますし、東北地方でも内陸地方と沿岸地方でも異なります。そのすべてを単一チャンネルに載せて送信するというモデルは限界があります。状況に応じて適切な情報を流すようなメディアを創生すること、それこそが今後に残された大きな課題だと考えています。